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   うみの独身寮  <5>

仲間の危機を知ったカカシとイルカの行動は素早かった。
地面に倒れ伏すエビスに駆け寄り、抱き起すイルカ。
カカシはエビスを襲った敵を探すべく周囲にチャクラを張り巡らし異常を探る。カカシから発せられる殺気はただならぬ鋭さを内包し、火影を退いた今でも木の葉の最高戦力であることを周囲に知らしめた。

「イルカ先生。彼の容態は?」

エビスとイルカには一片の視線もよこさずカカシが聞く。
それはイルカの見立てを信頼しきっているからに他ならない。

「命に別状はありません。顔面から出血が見られる程度です。気を失ってはいますが術に掛った形跡もありません」

ふっ、とカカシの殺気が和らいだ。

「里全体を探ってみたけど、おかしなところはなかったよ。どうしてエビス先生がこうなったか知っている奴は教えて欲しい」

最初に口を開いたのはイビキだった。

「部屋に居たらエビス先生の悲鳴が聞こえてきて、慌てて外に出てみたら血を流して倒れていてだな」

続いてガイが困惑気味に話し出す。

「うむ。何かの勝負かと思って駆けつけてみれば、エビス先生は気を失っているし、敵がいるようでもなかったし。まてよ? ゲンマが側にいたぞ」

皆の視線がゲンマに集まると、バツが悪そうに口に食んだ千本をくゆらせていたゲンマが重い口を開いた。

「わりぃ、俺のせいだ。エビスが女性に対する耐性をつけたいと言ってたんだよ、だから、な?」

ぼふんっ!

素早く変化の印を結んだゲンマの体は煙に包まれ、黒髪のナイスバディーなお姉さんへと変わる。流石に良識が邪魔したのだろう。裸体ではなく豊満な胸元を強調したトップスにミニスカートという出で立ちだ。

「はぁ〜〜〜」

カカシが間の抜けたため息をついた。
イルカは驚きに目を丸くしている。

「あの、ゲンマさんのこの姿を見てエビス先生は意識を手放した、と?」

本心は、確かにセクシーではあるけれどこの程度で気絶するなど信じられない、といったところだろう。

「イルカぁああああ!!!! あえて聞くな! そこは聞いてやるなぁあああ!! うぉおおおおお!!!!」 

青い猛獣が涙を流しながら吠える。

「ガイ、うるさいよ」

またため息をついたカカシに、ゲンマが頭を下げた。

「すまん。大事になってしまった。ちなみに出血は鼻血だ」

「あー、うん。まあ、ね。そもそもゲンマに悪意があったわけではないし、この姿で鼻血吹いて気絶ってゆーのも普通は考えられな……あ?? え!?」

眠そうなカカシの目は今や驚きに見開かれた。
彼の水晶体に写っているのは、鼻から血しぶきをまき散らしながら後方に倒れ行く巨体。

「えぇええええ!? イビキっ!? なんでお前が!?」

ズシーーーーン!!

地響きをさせてイビキが倒れ伏した。

「イビキさんっ!?」
「うおぉおおおおおお!! イビキぃいいいいい!!!!」
「どーしたんだ! イビキっ。お前はエビス先生と違って百戦錬磨だろう!?」

心配して周囲に集まった仲間たちの前でイビキはついに言ってしまったのだ。

「アンコ……」、と。

「ん〜〜?」

イルカが思い切り首をかしげ、その姿をカカシが見ている。

「アンコ、って みたらしアンコさんのことですかねぇ」

誰もが持った疑問を口に出して、イルカはさらに首をかしげる。

「そうだねぇ」

「いや、そもそもこの変化は俺のオリジナルだぜ? なんでアンコが出てくるんだ?」

「うぉおおおお!! しかしながら、どことなく若い頃のアンコに似ているではないかぁあああああ!!!!!!」

確かに、とその場にいた全員が頷く。

「あ」

ゲンマが口をあんぐりと開け、千本がポロリと落ちた。

「イビキの奴、好きな女がいるって言ってた」
「「「あ」」」

こうしてイビキの片思いの相手が皆に知れることとなったのである。
その後イビキはアンコと思いを通わせ、うみの独身寮を去ることになる。
けれどもこれは別の物語。いつかまた、別のときに話すことにしよう。

さて、地面に寝転ぶエビスとイビキを部屋に戻す算段を付けているところにテンゾウを伴った綱手が帰ってきた。
テンゾウの両手には酒瓶がぎっしり詰まった大きな袋が下がっている。

「皆、私を出迎えてくれたのか!? では親睦を深める為に呑むか。酒ならタップリ買ってきたぞ。 おや? イビキとエビスはもう酔い潰れたのか!」

違います、と言えば面倒なことになると全員察していたので、それぞれが曖昧に綱手を肯定する。

「さぁさぁ、とりあえず中に入るぞ。宴会場に集合だ!」

イビキをカカシが、エビスをイルカが背負った。
そして上機嫌で先陣を切り独身寮に入っていく綱手の後を、入居者たちが追うのであった。


数時間後、イルカの絶叫が独身寮に響き渡った。

「ひぃいいいい! 綱手様、その酒オレ名義のツケで買ってきたって本気で言ってるんですかっ!?」

「ああ。寮費は食事代込みだったろう?」

「あの、お言葉ですが酒代は食事代にふくまれま」
「す!!」←綱手
「せん!!」←イルカ

「はははははは! イルカよ、私の勝ちだな」

「そんな、綱手様はオレよりデカい声出しただけじゃないですかっ!」

「まぁまぁ、細かいことは気にするな。酒が不味くなるじゃないか」

「イルカさん、すみませんでした。ボクは止めたんですけど、押し切られてしまいました」

「分かってます。テンゾウさん。綱手様は誰にも止められません」

「まぁまぁ、この場は割り勘にしようじゃないか」

「いいやダメですっ。決まりは決まり。イルカ先生ッ、早速赤字ですね。 でも心配はいりません。このはたけカカシがついています。あ。でも約束は守ってくださいね。俺は必ずベッドの上で全力で貴方を蕩かしてみせますから!」

「なっ、なっ、なっ!! 公衆の面前でなんと破廉恥な!!」

「エビス先生よぉ。落ち着けよ。また鼻血噴くぞ」

「うおぉおおおおおおおおおおお!! 熱き血潮! 滾る闘志!! 勝負だぁああああああ!!!!」

ぎゃいぎゃいと騒がしく、うみの独身寮の夜は更けていく。
今日も、明日も、明後日も。
一か月後も、二か月後も。

もちろん、赤字を垂れ流しながら。

 

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