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   うみの独身寮 <1>

「カカシさん、俺、独身寮をやるので投資してください」
「はぃぃ?」

居酒屋の個室で卓を挟んで座っている相手の、突飛な発言にカカシは目を丸くした。

「独身寮って、なんでまた」
「長年の俺の夢だったんですよ」
「いえね、アナタとは付き合いだけは長いんだけど、そんなのは俺、初耳です」

カカシの言葉にイルカの眼がおもいっきり泳いでる。
もうここは大海原かとつっこみたくなるくらい、盛大に泳いでいる。
しかし、さすがはアカデミーが誇るベテラン教師、うみのイルカ。
すぐに真面目な顔になって熱弁を振るいはじめた。

「先の大戦で家族を失った若者も多い。そんな彼らに家庭のぬくもりを与え、あぁ、家庭っていいなぁ俺も嫁さんが欲しいなぁ、と思わせてやりたいんです!」

ダンッ! と己の発言に興奮したイルカが卓を叩く。

「俺は里の将来を担う若手達が安心して暮らせる場所を提供したいんです。アットホームな独身寮をやりたいんですっ」
「なるほど。それがアナタの火の意志なんですね!」
「はいっ。カカシさんは火影を引退してたっぷり退職金貰ったでしょう? だから投資してください」
「まぁ、金はうなるほどありますけど。でもね、イルカ先生。家庭のぬくもりを与えるとかいって、独身の貴方がどうやって”家庭っていいなぁ俺も嫁さんが欲しいなぁ”って思わせるんですか」
「うぐっ」

言葉に詰まったイルカにカカシはニンマリと笑いかけた。

「貴方の建前はよくわかりました。で、本音は?」

きっちりと正座をしていた足を崩し、イルカは面倒くさそうにガシガシと頭を掻いた。
急にやさぐれた雰囲気を纏ったイルカをカカシは面白そうに見遣る。

「そんなもん、俺の豊かな老後のために決まってるじゃないですか。税金はガンガン上がっていくし、退職金は3割減だっていうし、カグヤショックで持ってた株は暴落するし、嫁さんいないし当然子供もいないし、正直将来不安なんですよ」
「じゃぁ俺と暮らしましょうよ。一生愛します。贅沢させてあげますよ。イルカ先生の好きなもの何でも買ってあげる。俺なら温泉付きのお家だって買ってあげられますよ」

ずい、と身をよせてきたカカシのデコをイルカが容赦なくペチンと叩いた。

「痛い!」
「嫌ですよ。独身寮をしたいもう一つの理由教えてやりましょうか
「同居人が多けりゃぁ、変な上忍にケツの穴狙われずに済むからですよ!」
「へ、変な上忍って俺のことですか!? ……ヒドイ」

痛むデコをさすりながら、カカシが情けない声を出した。

「とにかく、俺は独身寮をやります。で、初期費用を融資してもらいたいんです。5000両」
「俺と暮らすのは嫌で金は出せって、そりゃないでしょうよ、イルカ先生」
「いいですか?カカシ先生。これは投資です。金の無心じゃぁありません。ちゃんと利益を出して上乗せしてお返ししますよ」

イルカは鞄から取り出した書類を無造作に卓の上に置いた。

「事業計画書? こんなもんまで作ってたんですか?」

今まで話半分に聞いていたカカシだが、案外イルカは本気なのかもしれない。だったらこちらも真面目に聞かねばならないと、書類を手に取り目を通していく。

「これ、銀行にもっていった?」
「行きましたが断られました」

ーーだろうねぇ。綺麗にまとめられているけれど、随分と楽観的な数字が並んでいるもの。
で、頼るところがなくなって俺ってわけね。
水臭いなぁ。投資なんていわなくても、くださいっていったらいくらでもあげるのに。
でもこれ、俺にとっては先生を手に入れる絶好のチャンスだぁねーー

「もっとでも出せるけど、もし返せなかったらどうしてくれるの?」
「その場合は……俺を一晩好きにしてもらっていいですよ」

ブフォワッツ!!

「ちょっ、カカシさん汚い!! 何吹いてんですかっ」

口に含んでた酒が出た。ついでに鼻血も出た。

「イ、イルカせんせ、あの。だったら5000、いや10000出しますから今から貴方を好きにしてもいい!?」
「いいわけねぇだろ!!」

ベチン!
今度はデコピンをくらわされたカカシである。

「だったらなんで」
「俺の独身寮は、何があったも絶対に赤字にはなりません!」
「そ、そうですか」

ーーなるほど。
借金が返せなくなるとは露程も考えてないんだね。
なんかねー、それねー、流石の俺でもちょっと傷つくし怒っちゃったよね。
要は赤字経営にすりゃいいってことでしょ? 俺、がんばるよ。
元火影を敵にまわしたことを、後悔させてあげるから――−

「いいでしょう。出しましょう」
「えっ!!」

かっ……かわいいっ……!!
きらきらと輝くイルカの笑顔にハートを打ち抜かれ、いまにも、鼻の穴から血液がコンニチワしそうなくらいに興奮しているカカシは、気持ちと表情を引き締めてから口を開いたのだった。

「ただし、条件があります」
「聞きましょう」
「まず、独身寮には男しか入居させないこと」
「なんで?」
「だってね、若くておっぱい大きい女の子が入ってきて、可愛い声でイルカ先生大好き。とか言っちゃったらアナタ鼻の下伸ばしてついてっちゃいそうなんだもの」
「あったりまえです。男だったら誰でもついていくでしょうが」
「いいえ、俺は違いますよ。俺はイルカ先生一筋です。で、どうするんです? この条件のみます?」
「まぁ、いいでしょう。のみましょう」

よっしゃ! ガッツポーズを決めるカカシを見るイルカの目はとても冷たい。

「次にイルカ先生の隣の部屋に俺が入居します」
「却下!」
「ここに書かれている家賃の倍だします」
「うっ。……でもダメです」
「じゃぁ5倍」
「ご、5倍!? わ、わかりました。いいでしょう」
「最後に、借金が返せなかった場合、貴方を自由にするのは一晩じゃなくて1か月。イルカ先生俺ね、ベットの中でもすごいんですよ。1か月あったら俺なしじゃ生きていられない身体になってるから、愉しみだぁね」
「いやです」
「なんで!」
「まず、ベッドの中でもすごいって自分で言うアナタがキモイ。なんですかその自信。ほら見てください。鳥肌立ってます。一か月なんて絶対に無理です!!」
「……」

――言ってくれちゃうよね。俺のこと何言っても傷つかない無敵の男とでも思ってんのかね。もういっそここで襲っちゃおうか。いや、ほんと俺上手いから、躰だけでも……っと。
あー。だめだめここは冷静に。ちゃんと罠をはって心も身体もしっかりと絡め捕って俺のものにしないと――

「あれ? イルカ先生おかしいですよ。あなたさっき、俺の独身寮は赤字にならないって。赤字にならないなら借金は返せますよねぇ。はなから反故になる約束なんだから、一晩でも1か月でも関係ないでしょうに」
「そ、それはそうですけど。じゃぁアンタこそ、なんで1か月なんて言い出すんです?」
「やっぱり5000両の対価としては1か月程度が妥当だと思っただけですよ。5000両っていったら一か月、太夫を買ったって釣りがでる金額ですからね」
「そうかもしれませんが……」
「じゃぁ、こうしましょう。この条件のんでくれたら、月に一回入居者相手に俺が忍術指南をしてあげますよ。そしたら家賃を2割くらいあげても入居者くるでしょうよ」
「むはっ! 火影カカシブランド!! ぐぬぬ。家賃2割増し。ぐぬぬぬぬぬ。……わかりました」
「じゃ、決まりですね」

しぶしぶといった様子のイルカとは対照的に、カカシは嬉々として先ほどの内容を法的な効力を持つ契約書へとまとめ上げていく。

「はい。イルカせんせ、ココとココに印鑑ね」

イルカはカカシに言われるがままに、捺印した。

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