秘密劇場 空に響け、愛の歌 <1>
お話の中に全部で3つの謎かけを仕掛けました。お話の続きにアクセス制限をかけておいて、謎かけの答えをパスワード欄に入力することでお話の続きを読めるようにしました。作るのなかなかめんどくさかったです。挑戦してくださった方もめんどくさかったと思いますwww ご参加いただいたみなさんに心からの感謝を!
それでは、本編のはじまり はじまりぃ〜*。.:*・'(*゚▽゚*)'・*::*・*
「ただいま、イルカ」
火影としての務めを終えると、カカシは病室で眠るイルカの元へ駆け付ける。点滴によって命を繋ぐイルカの身体は痩せ細り、かつての面影はない。
イルカはずっと眠り続けている。
無限月詠にかけられたあの日から、ずっと。
もし、このまま目覚めなければ、彼岸へと旅立ってしまうかもしれない。
カカシは喪失の恐怖と戦いながら、イルカの目覚めを一日千秋の思いで待ち続けている。
カカシの唇から、ふと歌が零れた。
「逃げろ逃げろ 弱虫ども…… 逃げろ逃げろぐずぐずするな……」
音楽室でイルカに教えてもらった歌。
イルカがこうなってしまってから、幾千となくカカシが歌っている歌。
カカシはイルカの頬を遠慮がちに撫でてから、イルカとの大切な想い出を辿りはじめた。
初めて出会ったのはアカデミーの廊下。
鼻に傷を持つ青年が、顔を真っ赤にして怒りながらナルトを追いかけていた。
とっ捕まえて差し出してやると、爽やかな笑顔で礼を言われた。
息をするように自然に笑う人間など初めてみた。
思えばこの日から、イルカに惹かれていたのだ。
イルカとはじめて食べた一楽ラーメン。
替え玉を何玉食べられるか、なんてくだらない勝負をした。
イルカが勝った。
お腹がいっぱいのくせに「どうしても餃子が食べたくなった」というイルカと、一人前の餃子を分け合って食べた。
あんなに幸せな食べ物があるなんて知らなかった。
中忍試験の会場では、互いの教育理念を真っ向からぶつけ合った。
揺るぎない信頼関係があるからこそできる、真剣な勝負だった。
互いに会うための時間を捻りだし、酒を酌み交わしながら沢山の話をした。
くだらない話から魂の根幹にかかわるような話まで、イルカには何だって話せた。
しこたま飲んでへべれけになった帰り道、夜空に浮かぶ星々に纏いつく、美しい神話を聞かせてもらった日もあった。
音楽室で教えてくれたティラノザウルスの歌。
イルカが弾いた美しいピアノ曲。
モノクロだった己の世界が、イルカの傍らにいるときだけ色彩に満ちる。
その豊かな世界をカカシはことのほか愛していた。
「ねえ、イルカ。いつだって好きです。
貴方は他の人を愛したから、想いを告げなかったけれど。
こうなってまで貴方を求める俺を、どうか赦して」
愛しさとやるせなさが胸に押し寄せ、カカシは我知らず、両の手を祈りの形に結んでいた。
――だれかイルカを目覚めさせてください。
俺はどうなってもいいから。
代わりに俺の命をあげるから、誰か、どうか、イルカを助けて。
誰か、誰か、父さん――!!
*
その夜。
カカシは夢を見た。
「カカシ」
懐かしい声に呼ばれ振り返ると、深い思慮が滲む優しい眼と出会った。
あぁ、父さんだ。
父さんは哀しみに眉を寄せ、愛しさに頬を緩ませた複雑な表情で俺を見ていた。
「父さん」
不安と戸惑いと悲しみで満ちた心に、小さな明かりが灯る。
「父さん、助けて。イルカが目覚めないんだ」
口をついて出た言葉は、まるで子供だった。
大きくて温かな手が俺の頭のてっぺんに置かれ、それから後ろにまわり、柔らかな動作で頭を引き寄せられる。
父に抱かれた俺の頭上に、聡明な声が予言のように降り注いだ。
「彼は報われない望みに苦しみ、心を閉ざした。だから、その望みが叶えば現世に戻れるよ。
これからお前を彼の月詠の世界に送ってあげよう。
いいね、カカシ。何があっても決して怯まず、二人の絆を信じるんだ。
彼の<本当の望み>を見つけ、叶えられるのはお前しかいないのだから。
彼と共に戻り、彼と共に生きなさい」
「父さん?」
見上げたときには、父の姿も温もりも儚く消えたあとだった。
*
視界が歪み、世界が滲む。
気付けば、カカシは杉の木の下に立っていた。
空を見上げると、黄色い陽の光が目に眩しい。
中天よりやや西に下った太陽は、緑の稜線を鮮やかに照らしている。
その緑を縦断する一筋の灰茶の煙。
それは、杉の木からほんの十数メートル離れた先にある、茅葺屋根の民家の前庭から立ち上っていた。
「かぁちゃん!」
元気の良い声と共に、民家の引き戸がガラリと開き、軒下に干された柿の暖簾の下から少年がまろび出てくる。
少年は、膝高ほどの熊笹を掻き分け、煙をあげる枯葉の山に近づくと、火の番をしている女を嬉しそうに見上げた。
「焼き芋、出来た?」
鼻傷を持つその子は、チロチロと舌を出す火に視線を移し、期待に目を輝かせている。
―― イルカ……だ。
「まだよ。父さんが戻るころには焼けるでしょう。あなた、お腹がすいてるのね? 仕方のない子。台所にお団子があるから食べておいで」
「はぁーい!」
出てきたばかりの家に走り戻る我が子の背を、母は目を細めて見送った。
――これがイルカの望む世界なのか?
カカシの胸に生じた疑問は、みるみるうちに膨らんでいく。
――何でも自由になる夢の世界なら、どうして”彼女”がいないんだ?
どうしてイルカは子どもなんだ?
イルカには青い目の婚約者がいた。けれど、彼女はイルカと結ばれる前に儚くなってしまった。
カカシは彼女に会ったことはなかったし、イルカもまた、何も語らなかったが、カカシはイルカの真摯な想いを知っていた。
イルカは折にふれ、左薬指に光る青の宝石を慈しむ。
喪われた恋を悼み、指輪を愛でる。
そのイルカの表情がカカシの脳裏に強烈に焼き付いていた。
イルカの<本当の望み>は、彼女と暮らすことだろう。
だとすれば、現世では決して叶わぬ<本当の望み>を暴きだし、イルカに突き付けたとしても、イルカは現世に帰ってきてくれるのだろうか。
帰ったとしても、イルカが可哀想だ。
現実で幸せになれないからこそ、イルカは月詠の世界に閉じこもったのに。
――でも、ごめん。イルカ。
貴方が苦しむことになっても、俺は貴方に戻ってきて欲しいんだ。
身勝手で、ごめん
どうすればイルカを目覚めさせることが出来るのか、カカシには考えもつかなかった。
忍である母親がカカシに気付かないということは、彼等にカカシは<見えていない>のだろう。
そんな状態で、イルカと話すことは出来るのだろうか。
カカシはイルカの後を追った。
玄関の引き戸を潜った先は土間になっていて、左奥へと伸び、その最奥にはカマドが見えた。
土間を歩き進むと、水屋の前にイルカが立ち尽くしていた。
イルカは虚ろな目で、皿に盛られた母の団子を手にしている。
それは、大人のイルカと同じ目だった。
イルカは時折こんな目でカカシを見た。
カカシがそれに気付くと、「すみません」とぎこちない笑顔で必ず詫びた。
その笑顔にカカシの胸は締め付けられ、ひどく痛んだものだった。
苦しいはずの記憶なのに、愛しさが込み上げる。
「イルカ!」
イルカへの思慕のおもむくまま、彼の背に向けてカカシが叫んだ。
ビクリ。
イルカの肩が跳ね上がる。
おずおずと振り返ったイルカが、呆然と呟いた。
「カカシ先生?……どうして、ここに」
イルカは拳を強く握りこみ、何が起こっているのかわからない、といった風情で俺を見ている。
「そうです。俺です。見えるんですね? でもどうして俺を先生と呼ぶんです? この頃はもちろん先生じゃなかったし、貴方と知り合ってもいない。ねぇ、ひょっとして、貴方の中身は俺が知っているイルカなの?」
イルカはカカシから目を逸らした。
応えのないことが肯定を示している、とカカシは思う。
「そうだよね!?」
「そんなこと……どうだっていいじゃないですか」
「よくないよ。ねぇ、イルカ。俺と帰ろう? みんな貴方の帰りを待ってる」
「嫌……です。俺はここで父と母と暮らします。それが俺の望みだから」
「だけど、貴方が本当に望む世界はこれじゃない」
カカシの言葉にイルカはギリッと唇を噛んでから、消え入るような声で呟いた。
「これが、俺の本当の望みですよ」
「嘘だ。だってこの世界は色々おかしいじゃない。イルカは大人なのにどうして子どもの姿をしているの?」
カカシは、この世界に感じていた違和感の正体を暴き始める。
「なぜ家の周りを熊笹が取り囲んでいる? これじゃ、蟲や長者の類が、すぐ家に入ってしまう。
庭に、たき火が出来るほどの落ち葉があるのに、裏山が青々としていたのも妙だ。ねぇ、イルカ。裏山に○○○が一本もないのはどうして?」
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答えは落葉樹でした
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