カカイル目次に戻る  

   最後のクリスマス

冬の夜空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。
天空の星々の輝きが、はしゃぎ疲れて眠った里を優しく照らしている。

今日はクリスマスイブ。

イルカは自室の炬燵からもぞもぞと這い出ると、寝巻を脱ぎ忍服に袖を通した。
闇に紛れるには忍服が最適なのだ。
もっとも相手の実力を考えると姿や気配を消しても今回のミッションが成功する可能性は限りなく低いのだけれども。

「まぁいい加減、俺も手を離さないといけないしな」

ぽつりと独り言を零してからイルカは印を結んだ。



年期の入ったアパートの前に降り立ったイルカは、何度も通ったその部屋の前で中の気配を慎重に探る。

寝室に感じる気配は一人分だけ。

よし、とばかりにイルカは無言で頷いて窓ガラスに手をかけた。
施錠されていない窓が、この訪問が相手にばれていると告げている。

苦笑を零しながらイルカは寝室へと足を運ぶ。

中から聞こえてくる、大きな鼾に優しく頬を緩ませてイルカは部屋の主の枕元に近づいた。
あどけない寝顔は幼いころの面影を強く残していて、愛しさに負けてつい手が動いてしまう。

つんつんと本人と同じに元気よく跳ね回る髪を優しく撫でる。
もう本人が起きてもよいと思っていた。
こんなことをするのも今日が最後なのだから。

「ん?」
「ナールト?」

ナルトは目をごしごしと擦ってからゆっくりと上体を起こした。
イルカの姿を認めて嬉しそうに笑う。

「サンタさん、やっとみっけたってばよ」
「ああ、そうだな」


*


「サンタなんかいないってばよ!!」

アカデミーに入学した年のクリスマスイブに、ナルトは級友たちと言い争いをした。

「絶対にいるよ。毎年来てくれるもん」
「いるにきまってんじゃんよ。俺、手紙かいたら返事もらったんだぞ!」
「へんっ、お前らいい歳してまだサンタなんか信じてんのかよ、かっこわりぃってばよ!」
「なんだと!?」

ナルトの回りに子供たちが群がって、口々にサンタクロースの存在を主張する。
壁際に追い詰められたナルトはヤケになって叫んだ。

「本当にいるなら、何で俺のところには来ないんだってばよっ!」

しん。
と教室が静まりかえった。

同期の子供たちの憐れみの視線に耐えきれなくなったナルトは子供らを突き飛ばし、教室から駆け出した。

泣いて泣いて泣いて。
父ちゃん、母ちゃん!! 
名前すら知らぬ両親を恋うて。

ひとりの夜は嫌いだった。
特にクリスマスなんて日の夜は。



翌朝は頭痛と共に目覚めた。

泣きすぎだ。
だけど、いくら泣いてもやるせない気持ちは今も心の真ん中に居座っていて。

でもでも、何でもないフリをして今日もアカデミーにいかなければならない。
みんなはきっとサンタさんがくれたプレゼントの話で盛り上がるだろう。

「ちっくしょう!」

カサリ

苛立ちと共に伸ばした拳が何かに触れた。

「ん?」

ガバリと起き上がると枕元に大きな包みがあった。

「なんだ?」

混乱と期待で震える手で包みを破る。
中からはおもちゃ、忍具、絵本、お菓子。ありとあらゆるものが出てきた。
全て出し終えて包みをひっくりかえすと一枚のカードがひらりと舞い落ちた。

『うずまきナルト君へ
メリークリスマス!! また来年も来るから。
サンタクロースより』

「サンタクロースより? え? あっ! やったーってばよぉおお!」


*

「あの日のことは今でも覚えてるってばよ。俺、めちゃくちゃ嬉しくて。みんなに、やっぱりサンタはいたんだって、俺のとこにも来たんだって言いまわった」

「うん。俺も覚えてるよ。お前すごく笑ってたから俺も嬉しかったよ」

「へへん。でも、なんであんなに沢山プレゼント入れてくれてたんだ?」

「んー、お前が欲しいものが分からなかったから、あれかこれかと悩んでいるうちに増えていってなぁ」

イルカの優しい言葉にナルトは視線を己の拳に当てて黙り込んだ。
これが言い難いことを言おうとするときのナルトの癖だと知っているイルカは話すのをやめてナルトを見つめる。

「あれから毎年来てくれてありがとうってばよ。ずっと聞きたかったんだけど。その、先生、大変だったよな」

毎年クリスマスイブに教え子の枕元にプレゼントを届ける。
それがどれだけ難しいことだったか恋人との結婚を控えた今ならよくわかる。
イルカの愛情を独り占め出来ないことが寂しくて別れを選んだ恋人がいたかもしれない。
九尾の子どもを忌んで離れた恋人がいたかもしれない。
こんなに優しいイルカは未だ独り身で。

そんなナルトの気持ちを察したかのように、イルカは暖かい笑顔を浮かべながらナルトの頭を乱暴に撫でる。

「大変だと思ったことなんてないさ。俺も随分と楽しませてもらったよ」

それからイルカはぎゅうっとナルトを抱きしめた。

「うずまきナルトは立派な大人になったから、もうサンタさんは来ません」
「……うん」
「今までありがとうな。ナルト」
「せ、せんせぇ。湿っぽいのは嫌いだってばよ」

目に浮かんだ涙を零さぬようにナルトは上を向いた。

「ああ、そうだな」


ナルト、親の真似事をさせてくれてありがとう。
いつまでもお前の先生でいさせてくれてありがとう。
これからもお前の先生でいてもいいかな?

言えない言葉を贈り物に託して。

「メリークリスマス 、ナルト」

おしまい (2016.11.30 UP)

(えっとこれと対になる、カカシとサスケの「最初のクリスマス」って話をクリスマスまでにUPしたいと思います。ってここに書いとけばきっと書くはず。頑張れ!未来の自分wwww)


カカイル目次に戻る