とりかえばや物語
忍びの世界なんて、奇妙奇天烈、人外魔境。何が起きても不思議はない。でも、ちょっとこれは。
いくらなんでもアリエナイんじゃないだろうか?
俺、うみのイルカは自分のすぐ側で、「あー」とか「うーん」とか意味不明の音を発している男をマジマジと見つめていた。
今、俺はツーマンセルで任務についている。
任務内容は禁術が記された巻物の奪還。
相方は、はたけカカシ。
そう。あの里の誉れだとかコピー忍者とか沢山の通り名を持つ超有名なあの、カカシさんだ。
ちなみに彼は俺の恋人でもある。
はずなんだけど?
「ちょーっと! イルカ先生俺たちどうなっちゃったんです? 貴方、俺の姿してるけどイルカ先生だよね? ってことは俺は今イルカ先生の姿になっちゃってんの!?」
うん。そう。
認めたくない現実を、言葉にして突き付けられてしまった。
俺の足元には奪還予定だった禁術の巻物が開かれた状態で転がっていた。
敵忍から取り返すときに紐が解けてしまったため、カカシさんと俺に禁術が作用してしまったようだ。
ちなみに敵忍は巻物には目もくれず逃げてしまった。そんなに巻物に執着ないなら盗むなっての!
「すみませんカカシさん。俺のせいで」
「いや、ダイジョーブよ? ただびっくりしただけで」
「俺もビックリしてます」
俺は巻物を拾い上げ、そこに書かれた術式を読み解いていく。
「これ変化とかではなく中身が入れ替わる術のようですね 再度術を発動させれば元の身体に戻れるみたいですよ」
「それはラッキーでしたね」
「ええ。でも自分の躰からカカシさんの声が出るって変な気分です」
「イ、イルカ先生。なにそれっ、エロいッ」
「は? どこが? バカなこと言ってないで早く戻りましょうよ」
「いやいや、バカなこと言ってるのはイルカ先生のほうですよ。折角なんだからこの状況を愉しむべきですっ」
「は?」
ヤバイ。
これ、ヤバイやつだ。
はたけカカシ、エロスイッチ入ってるよ。 いつ入ったよ!?
俺の発言にいつエロ要素あったよ!?
俺は半泣きになりながら、必死に言い募った。
「カカシさん、今任務中なんですよ? すぐに元の躰に戻って敵忍を追わなきゃ」
「だまらっしゃい! そんな些末なことはほっておきなさい!」
「些末なことじゃありません!って、アンタ何全裸になってんだぁあああ。 俺のち○○まじまじ見て触ってんじゃねぇ!」
「いや、今は俺のち○○ですから。いやぁ、イルカ先生ってここスゴイでしょ? いっつも撫でたりしゃぶったりしてあげると、めちゃくちゃ悦ぶじゃないですか。どれくらい気持ちいいか体験してみたくって」
「せんでよろしいッツ」
「あっ……くっ……キモチイイッ」
「人の話をきけぇえええ!!!!」
自分の躰だけど、カカシさんの肩をつかんで強く揺さぶる。
「いーえ! 聞けません!!」
「アンタ、なんだってんだ! 俺の躰でっ」
「いいえ。躰だけじゃありません。声だって今は貴方のものだ」
俺の目の前でカカシさんの自慰は激しさを増していく。
「んっ……カカシさんっ。好きっ。はやく挿れてぇっ。カカシさんのお○○○○でナカをめちゃくちゃにかきまぜて欲しいのっ。あぁーんっ。早くっ早くしてっ。イキたいのぉおっ」
「カカシさんっ! 俺の躰に何を言わしてるんですっ!?」
「だって、イルカ先生どんなにお願いしても絶対に言ってくれないじゃないですか。いつも俺ばっかり発情してるみたいで寂しいんですよ」
「知らんがなッ、このド変態」
「イルカ先生、ヒドイっ」
「いい加減悪ふざけをやめて元に戻りますよ」
「いや、無理です。だって、もうこんなんなっちゃって」
「だぁーかーらっ、そこ触るなっていったのに!」
カカシさんがさっきまで弄り倒していたせいで、躰の一部が収まりが付かないくらい昂っていた。
俺の躰だからわかる。あそこまで育ってしまったら自然に収まるなんてことはない。吐き出さないと本当の本当に辛いのだ。
でも、俺の躰はカカシさんのせいで、前だけの刺激じゃ達することができなくなっていた。
「辛いでしょ? いつも俺がイク寸前に根本強く掴んだり、鈴口塞いだりして意地悪しますよね。もうしないって約束してくれたら抜くの手伝ってあげますよ」
「わ、わかりました。お願いですから手伝って。 後ろ触って」
「いいでしょう」
俺はカカシさんの前にひざまづき、手始めに天を仰ぐソレを口に含んだ。
「ふっ、あぁあ!」
あ、結構エロい声。
いつもカカシさんはイルカ先生の声は腰にきます、なんて言ってくれる。
俺みたいな野太い男の声なんかより女の喘ぎ声のほうがイイに決まってるのに。
なんて思ってたけど。今のは結構エロかった。
「な、なに他のこと考えてンのっ。ちゃんとシテ?」
掠れた声で、途切れがちに紡がれる催促の言葉は可愛かった。
男の、というか俺の声だけど、そんなことは気にならないくらいカカシさんに興奮してしまう。
「す、すみません」
顔をあげてカカシさんの表情を伺う。
「う、うっわ!」
変だ変だ変だ! すごい変な気分だ!!
俺の顔なのに、俺の声なのにカカシさんがすごく色っぽい。ヤバイ。
ズクリ、と下肢が疼く。
もはや義務でもなく俺は夢中でカカシさんのモノを扱きあげ、しゃぶり舐っていた。
イレタイ。
心に沸いた衝動に驚く。
まだ俺に雄の部分が残っていたなんて。
でも、これは自分の躰だ。
「イ…ルカせんせっ! 自分の躰いじるの恥ずかしいなら目を瞑ってっ。俺もなるべく声出しませんから。俺の躰だと思って。はや…く後ろ。も、イキたいんです」
「はっ、はいっ!!」
俺は目を瞑り、手探りで秘所を探りあて指をナカへと進ませた。
あったかくて柔らかい。
まるで女の秘所のようなその感覚に、ためらいもなく指を2本、3本と増やしていった。
蠢く肉が指を締め付ける。
ひょっとしてこれってみみず千匹?
自分のナカがこんなになってるって知らなかった。
イレたら本当に具合よさそうだ。
カカシさんの息が更に荒くなる。
俺のベストに必死でしがみついて、もっと欲しいと腰を揺らしている。
いつもカカシさんが俺にしてくれるような動きで俺はカカシさんを追い詰めていった。
悲鳴にも似た嬌声をあげ、カカシさんは絶頂を迎えた。
熱い飛沫が俺の顔や首元を汚していく。
吐精の余韻に小刻みに震えるモノが愛しくて、先端にキスを落した。
「イルカせんせ。今度は先生のコレ、挿れてください」
「え?」
「だって貴方のこんなになってるし。それに俺がイルカ先生の躰でどれだけ良い思いをさせてもらってるか、貴方にわかってほしいんです。俺もイルカ先生がどんな風に俺を感じてくれてるのか知りたいし」
「な、な、な、何をいってるんですかっ。いくらなんでも自分の躰につっこめませんよっ」
「大丈夫。出来ますよ。ね、イルカ先生、俺がどんなに言葉を尽くして貴方とのセックスが素晴らしいって伝えても貴方信じていないでしょう? 男の自分より女のほうがいいに決まってるって、俺が貴方に気を使ってそう言ってるって思ってますよね」
「気付いて……たんですか」
「ええ。こんなに愛し合っているのに貴方は俺と躰を繋げることに負い目を感じてる。俺はそれが哀しいんです。そんな想いを貴方に強いている自分が情けないんです。嘘でも何でもなく俺は貴方の心にも躰にも溺れているってことを分かってほしいんです。だから、ソレを今の俺に挿れてみてください。俺の言葉にウソがないって絶対に分かってもらえるから」
さっきから俺は、堪え難い性衝動を理性で抑えこんでいた。
でもカカシさんの言葉を聞いてしまったら。
ずっとずっと辛かった。
本当にカカシさんは俺で満足しているのか?
いつか柔らかい躰と甘やかな声を持つ女に心変わりされてしまうんじゃないかって、ずっと不安で、怖くて。
だから示される愛情を正面から受け止める勇気が持てなかった。
ましてや閨で自分の快楽や欲求を口にすることなんて出来るわけがなかった。
カカシさんのいうように自分のナカがどんなだか体感したら、もうこんなやるせない思いに苦しむことはなくなるのだろうか。
それはとてつもなく甘美な誘惑だった。
「イルカせんせ、おいで」
あぁ、カカシさん。俺は……
*
*
*
*
*
結論。
俺の躰、相当ヨカッタ。
俺、相当エロかった。
カカシさんはもう俺以外抱けないといっても過言ではない。と自惚れるくらいにヨカッタ。
今までの悩みが霧散し、嘘みたいに心が晴れてゆく。
「イルカせんせ、俺が貴方に骨抜きにされてるって分かってくれた?」
「はい」
「よかった」
「俺も、よかったです」
事後の甘やかな雰囲気に身を任せようとカカシさんの胸に頭を預けたところで、ふと我に返った。
「あ! カカシさん、俺たち肝心なこと忘れてます! 逃げた忍、捕まえなきゃ!!」
立ち上がり、乱れた着衣を整えていると不意に手を掴まれる。
バツの悪そうな顔のカカシさんが俺を見上げていた。
「あー。その必要はないかも。だってアレ俺の影分身だから」
「は?」
「この術も実は俺が作ったんです。だからこの巻物、禁術でも里外持ち出し禁止でもないんですよ」
「え? えっ? ちょっとまってください。じゃあこの任務は?」
「偽装任務です。貴方に本当のことを分かってもらうにはこの方法しか思いつかなくて」
「はぁああああああああああ!? でもこの任務火影様からの勅命でしたけどっ!?」
「はい。三代目の弱味なら幾つか握ってますから脅して協力させちゃいました」
「させちゃいました、じゃねぇーだろうがよっ!!!」
「イルカ先生、騙してごめんなさいっ!」
大きな躰を精一杯小さくして謝る恋人に怒気も霧散してしまう。
そもそもそんなに怒ってなかったし。
だって、カカシさんは忙しい任務の合間を縫って術式を開発して、火影様を脅してまで俺の不安を払拭してくれたんだ。
「カカシさん、好きです」
心から零れた言葉にカカシさんが目を見張っている。
驚きから喜びの笑顔へと鮮やかにその表情を変えるカカシさんに、俺は見惚れた。
恋心なんてものは、奇妙奇天烈、人外魔境。
何が起きても不思議はない。
でも俺たちは何があっても一緒に生きていける。
そう思える幸せに、俺たちは酔いしれた。
おしまい!!