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   テクニシャン カカシ


抱かれる。と、思った。

下草を踏みしめる足先が思いがけず木の根に当たったとき、傾ぐ身体を立て直そうとする本能を捻じ伏せ、数歩先を歩くカカシさんに縋った。
驚いて振り返ったカカシさんが俺を抱き留める。
そのまま自分の体重を預けると、彼ほどの忍びがあっさりと後ろに倒れ込んだ。

柔らかな草が、俺を抱いたカカシさんの身体を受け止めて。カカシさんはイルカの思惑なんて全部わかってるよって顔をして、優しいけれど獰猛な雄の目で俺を見ている。
大胆なことをした自分が急に恥ずかしくなって、息がかかるほど近くにあるカカシさんの顔から視線を外した。
下草はまだ朝露に濡れていて、手をついた俺の指の間の幾つかの透明の珠が空の青を映しこんでいた。

「先生、どうしたの?」

カカシさんはいじわるだ。
俺を抱きしめて倒れた時点で、共犯者のくせに。
カカシさんと俺が付き合って、もう随分経つのにまだ抱いてもらっていない。
男とも女とも数々の浮名を流してきたカカシさんが手を出してこないことに俺は焦れている。
体つきも顔立ちも男らしい部類に入る俺を抱く気になれないんじゃないか、と、眠れない夜を幾つ越えたことか。
それに悲しいけれど、大人の恋愛は性欲と切り離せない。
俺の身体がカカシさんを求めている。独りで慰める日々ももう限界に近い。
抱いて欲しい。
男も女も一度カカシに抱かれれば他の男では満足できないといわれるその性技を早く味わいたい。
カカシさんをこの身の深くに迎え入れ、カカシさんを包み込み絞りあげたい。
一緒に気持ちよくなって白濁をまき散らし天国を見たいのに。

「カカシ……さん」

恥ずかしくなるくらいに俺の声は掠れて期待に満ちていた。
熱を持ち始めた股間をカカシさんの腿に押し付ける。気付いて。抱いて。無茶苦茶にキモチよくして……。

「……イルカ」

グッと息をのんだあと、カカシさんが俺を呼んだ声は低く艶めいて切羽詰まっていた。

だから。
抱かれる。と思ったのに。

カカシさんは俺をぎゅうっと抱きしめたあと、瞳に宿っていた欲を見事に消し去り、まるで子どもにするように俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「まだだぁーめ。焦らないの。気持ちの関係をしっかりと作ってから身体をつなげましょう。俺に抱かれるとね、みんな俺に夢中になっちゃうの。俺はね身体じゃなく中身でイルカをメロメロにしたいから、もう少しまって。ちゃんと心が繋がったらこれ以上ないってくらい気持ちよくしてあげるから、ね?」

駄々っ子をあやすように、何度も背中を撫でられて。
もういいから。もう充分に愛してるから今すぐ抱いて欲しい、と言いたい気持ちを押し殺した。



*
それから半年。

「最初は可愛いって思ったんです! でももう限界です!!!」

俺は酒酒楽の個室で向いに座るヤマトさんにむかって叫んでいる。
ナルトの通じて知り合ったヤマトさんと俺はすぐに意気投合し、たまに呑みにいく間柄になった。
酒酒楽の暖簾を4度ほどくぐった頃に「先輩のことで悩んでいるならボクが力になりますよ」とヤマトさんから声を掛けられ、相談するかしないか数日悩んだあげく結局打ち明けることにして、今ここに居る。

「何がです?」
「下手クソなんです。これ以上ないってくらいに独りよがりで、全然俺のことを考えてくれない」
「はぁ……で、何が?」
「何って、セックスですよ」

ブハッ!!
ヤマトさんの口からビールが水しぶきとなって飛び出した。
あぁ、もったいない。今日は俺の驕りなんだから、大事に呑んで欲しい。

「す、すみません」

おしぼりでその辺を拭くヤマトさんを視界に入れながら、不満をぶちまける。

「カカシさんは自分じゃすっごいテクニシャンだと思ってるんです。でも実際は前戯もろくすっぽせずに、突っ込んで腰を振り立てるだけ。ペニスはデカいから気持ちいいっちゃいいんですけど、何度も達しても満足してくれないから、いい加減ナカが痛くなってくるんですよね。体位も変えないから、関節も痛くなってくるし。俺は同じポーズでアンアン感じてるフリをしなきゃいけない。たまに思い出したように俺の竿に触れてくるんですが、力加減もなってないし、ローションも使ってくれないから痛くて痛くて。結局自分でシコって出した精液を竿に塗りたくって、痛みを軽減させるんですけどね。それを見たカカシさんが「イルカはエッチだねぇ」って毎回嬉しそうに言うのが腹立つんですよね!!! こんなに下手なのに、自分では上手だと思ってる。それが最初は可愛かったんです。そのうち上手になるだろうと思って、こっちの要求をそれとなく伝えたりして。だけど、この数か月間毎晩Hしてるのに、ぜんっぜん成長しないんですよ!!!! !!!!!! この間なんてね……」

閨の不満は留まるところを知らず、俺は機関銃のようにヤマトさんに不満をぶつけていた。

「なるほど。イルカさんは欲求不満ってわけだ」

ヤマトさんの瞳が急に艶を帯びはじめて、ゾクリと肌が泡立る。
この人、こんな顔するんだ……。

「先輩が下手だったなんて思いもしなかったけど。良く考えればあの人に『下手くそ』って言える人、いないよね。忍なんて皆、房中術を知っているから演技も上手だし、それで『最高だった』って言われ続けたら、先輩が勘違いしても仕方ないと思いますよ」

そんな話をしながら、ヤマトさんの手が俺の頬に伸びてきた。
触れるか触れないかの距離で止る。

「でも、イルカ先生は可哀想だよね。満足させてもらえないセックスに意味なんてあるの?」

こんなヤマトさんは知らない。
ヤマトさんはいつだって穏やかで紳士的で、性別を感じさせないくらいの筋金入りの草食系男子だったはずだろ?
でも今は完全に捕食者で。
しかもヤマトさんが捉えようとしているのは、俺。

ドキドキドキドキと心臓がうるさいくらいに早鐘を打っている。
俺は期待しているのか?

ヤマトさんの指が頬に触れ、そのまま首筋を伝い下へと降りていく。
ベストの合わせ目にたどり着いた指は、更に下を目指す。
ジッパーの開く音がして、アンダー越しにヤマトさんの指を感じる。ダメだって思うのに動けない。このまま流されていいはずないのに。
ゆっくり、ゆっくりと。
一本の指が俺の身体を辿って。
臍の上を通り過ぎた頃には、俺のペニスはごまかしのきかないくらいに反応していた。

それを見たヤマトさんがニィっ笑った。

「感じやすいんですね。ねぇ、ボクが気持ちよくしてあげましょうか?」

あぁ。ダメだ。この人ホンモノだ。
絶対めちゃくちゃ上手い。

「先輩が夢中になるカラダ。実はずっと気になっていたんです」

低くて甘い声が媚薬のように俺の欲を煽る。
だめだだめだだめだ。

「バレないように、痕もつけないしナカにも出しませんよ? 先輩で足りないときは、ボクのところに来ればいい。ボクが先生を満足させてあげますから」

股間に刺激を感じて見下ろしてみれば、卓の下から伸びてきたヤマトさんの足が俺のモノを踏みしだいていた。

「クッ……はぁ……っ」

ヤバイ
ほんとに巧い。

「イルカ」

あぁ、だめだ。
ギュッと目をつぶってしまう。
足が離れたと思えば、今度は指が俺のモノを捉えた。
すごい。信じられない。カカシさんと全然違う。
キモチイイ。
罪悪感と快楽に嬲られて、心がどうにかなってしまいそう。

「ひ……ゃぁっ!」

耳の中にぬめりを感じて、目をひらくと、すぐ側にヤマトさんの顔があった。
逞しい腕が俺を抱き寄せる。
本気なのか?
このまま俺は流されていいのか?

「ね、イルカさんいい?」
「いい……わけない……です!!」

そうだよ。
いいわけないだろ!?

「俺が好きなのはカカシさんでっ! カカシさんとじゃないと意味がなくってっ!!」

逃れようと身を捩る前に、俺はあっさりと解放された。

「はっ?」

ヤル気まんまんだったはずのヤマトさんは草食系男子の顔に戻っている。

「うん。そうですよね。イルカさんはカカシ先輩が好きだからセックスしてる。他の誰かとのセックスなんて意味がない」

そう。
カカシさんとじゃないと、意味がない。

「最近のイルカさんは隙だらけだったから誰かに抱かれてしまわないかと心配で。だから、自覚してくれてよかったです」

「!!」

ヤマトさんが言った言葉にウソはないだろう。
恥ずかしくて、申し訳なくて俺は真っ赤になって俯いてしまう。

「さりげなく言って気付いてもらえないなら、『少しも上手くない』ってはっきり言えばいいんですよ。イルカさん、頑張ってください」

優しい笑顔で「ご馳走様でした」と告げて、ヤマトさんは瞬身で消えてしまった。

そうだよな。
ちゃんと言わなきゃ。
二人の問題なんだから。
なんなら俺がリードしたっていいんだから。

固い決意と共に俺はカカシさんの部屋に向かった。


FIN


~エンディングテーマ(アナと雪の女王替え歌)~

振りはじめた腰が 優しさ 消して
真っ白な世界に ひとりの 俺
風が心にささやくの
このままじゃ ダメなんだと

とまどい傷つき
誰にも打ち明けずに
悩んでた それももう やめよう

ありのままの姿見せるのよ
ありのままの自分を信じて
何も怖くない カカシ聞け
少しも上手くないわ

悩んでたことが うそみたいね
だってもう自由よ なんでもできる
どこまでやれるか
自分を試したいの
そうよかわるのよ 俺

ありのままで カカシの上に乗って
ありのままで 動いてみるの
二度と 涙は流さないわ

奥までカカシを包み込み
高く舞いあげた 腰を下ろして
独りで達した絶頂のように
感じていたい もう決めたの

これでいいの 自分を好きになって
これでいいの 自分を信じて
光あびながら 歩きだそう
カカシは上手くないわ





すみませんでした……orz



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