神秘の障壁
【ざっくり用語解説】▼宮廷音楽士
王宮で催される式典、夜会、舞踏会などの音楽を作曲、演奏する人。
基本的に公の場で演奏した楽曲は2度と演奏しないので、ものすごいスピードで沢山作曲し、王様や貴族様のご機嫌とりもしないと生き残れない大変なお仕事。
▼チェンバロ
ピアノの前身となった楽器。
グラントピアノみたいな形で、ペンペンした音がする。鍵盤が一段だったり二段だったり、楽器に絵がかかれてたり、カラフルに塗られてたりと色々なパターンがある。弾いてよし、見てもよしの美しい楽器。大好き。
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彼に惹かれたのは、類稀なる音楽の才故か、高潔な心故か。
1
朝の清浄な空気を大きく吸い込み、イルカは石畳が敷き詰められた道を辿っていた。
細い迷路のような路地を抜けると、そこは街一番の広場。
早朝の広場には無数の市が立っており、自慢の野菜や果物を売り込む者たちの威勢のよい声が響いている。
加えて檻から逃げ出した鶏を追い回す子供たちの歓声、噴水の縁に腰をかける妙齢の女たちが放つ朗らかな笑い声など、ここは大変に賑々しい。
どこからか漂いくる食欲をそそる匂いに誘われ顔をあげてみれば、空にはためく洗濯物の鮮やかな色彩が目に飛び込んできた。
ときを告げるカテドラルの鐘が鳴り響き、青い空を鳩の群れが横切る。
それを合図にイルカは再び歩き出し、赤茶の巨大な建築物の前に立った。
威圧的で品格を備えたこの建築物はこの国を治める王の居城であり、イルカの勤め先でもある。
顔見知りの門兵に挨拶を済ませ入城の手続きを終えたところで、イルカの耳が軽やかなチェンバロの音を拾った。
繊細であるのに、芯のとおった響きの美しい音。
いつだって聴いていたいと思う音。こんな音を出せるのは世界中でただ一人だ。
「カカシさん!」
宮廷音楽士長であるカカシに与えられた一室は、王宮の東側の1階の角部屋。
そこに、いちはやく辿りつくためにイルカは入城をあきらめ建物沿いに整備された小路を駆ける。
部屋の外まで一気に走り、開け放たれた窓の傍に静かに立って乱れた息を整えた。
そうっと中を覘けば、煌びやかな装飾を施されたフレミッシュの2段鍵盤のチェンバロと、それにつがうカカシが見える。
カカシの白い指が黒檀の鍵盤の上を舞うように滑り、次々とキーを沈めていく。
その動きに応じて突き上げられるツメが弦を弾き、彩ある音を生み出している。
弦に残る音の響きも美しく、転調を重ねながら奏される主題の正体に気付いたイルカは、感動に打ち震え小さな叫び声をあげてしまった。
ぱたり、と音が止み、振り向いたカカシと目が合った。
「ごめん、嫌だった?」
「とんでもない! ただ驚いてしまって。どうか続けてください」
「よかった。この曲、アナタが昨日歌っていた旋律で作ってみたの。とても綺麗だったからちゃんと曲にしてあげたくて。気に入ったなら採譜してもいいよ」
「ありがとうございます!」
いずれ採譜するが今は聴くことに専念したいと告げ、イルカは窓枠を乗り越え室内へと足を踏み入れた。
王様にバレたらお仕置きされちゃうね、と笑うカカシにはにかんで、チェンバロの横に控える。
カカシは美しい。
見目が麗しいのは当然のこととして、楽器を手にしたとき、その美しさは神がかったものとなる。
チェンバロを弾かせれば、腕から指先までがまるで一本の蔓のようになめらかに動き見るものを魅了する。
バイオリンを手に取れば、指板の上を華麗に舞うその指の動きに胸を衝かれる。
トランペットを吹かせれば、天に向かって伸びるかのような清冽なその立ち姿に平伏したくなるのだ。
そして何より彼の生み出す"音"の素晴らしさよ!
彼の才の前ではすべての楽器が頭を垂れ、服従を誓うのだ。
「カカシさんはずるい」
弾き終えたカカシの指を自身の指に絡ませながら、イルカが唇を尖らせる。
「この指で、どんな楽器も従えて、自由に鳴かせてしまうんですね。俺には到底できないことを貴方は涼しい顔でやってのけるんだ」
宮廷楽士長である恋人と、彼が率いる大勢の楽士のうちの一人であるイルカ。
イルカは音楽とカカシを愛するが故に、二人の実力と肩書きの差にしばしば苦しむ。
「ねぇイルカ。貴方色々間違ってる。まず、この指が従えて自由に鳴かせられるのは楽器だけじゃないよ」
繋がったままの指を勢いよくグイと引かれバランスを崩したイルカは、そのままカカシの胸に抱きとめられた。
カカシの指がイルカの項をゆっくりと撫で降ろし、白のレースを掻き分け、イルカの素肌を暴いていく。
「あっ……」
快楽に慣らされたイルカの躰はそれだけでもう堪らなくなって、唇から嬌声を零すこととなる。
「ほら、ね? この指は、イルカを従えて鳴かせることもできる指です」
「馬鹿っ、何言って!」
「ふふ。貴方だってバカですよ。俺は貴方を音楽家としても尊敬していると何度も伝えているのに俺なんかに嫉妬して」
引き続きイルカの衣類を乱しながら、カカシはイルカの唇を奪った。
甘やかな雰囲気に呑まれてしまったのか、カカシの言葉が嬉しかったせいか、イルカは従順だった。
気をよくしたカカシが最後まで。と心に決めたとき、部屋の外から騒がしい足音が聞こえてきた。
王宮内でこんな騒音をたてる者はひとりしかいない。
そして彼ならば間違いなく目的地はこの部屋だ。
慌てて服を整えようとするイルカを制し、チェンバロの下へとひっぱりこんだ。
イルカの背を床に押し付け、その上に覆いかぶさったところで、荒々しいノックと同時にドアが開けられる。
「カカシ先生、楽譜をもらいにきたってばよ! ってあれ? カカシせんせー??」
声の主は、ナルト。
カカシとイルカが特に可愛がり面倒を見ている楽士見習いだ。
真面目でめったに流されてくれないイルカのヤル気(ヤラレル気?)が削がれては大変とばかりに、カカシは指と唇で愛撫を再開する。
快楽に身を捩り必死に声を耐えるイルカにカカシは煽られ、イルカを弄った。
「おっかしいなぁ、カカシ先生どこだってばよ。今日中に新しい舞曲の練習をはじめないといけないってのに」
来た時と同じ騒々しさでナルトが出て行って、楽器の下からもぞりと這い出すカカシとイルカ。
チャンス到来とばかりに、露わになったイルカの胸元に唇を寄せるカカシをイルカが退ける。
「カカシさん、舞曲をまだ仕上げてなかったんですか?」
「ははっ、まずいことを知られちゃいましたね」
「笑ってる場合じゃないでしょう? 早く仕上げないと」
「うん。その前にイルカさんを抱いて、それからイルカさんの曲を完成させないと」
「なに呑気なことを言ってるんですか。隣国の王を迎える式典で披露する舞曲ですよ? すぐに取り掛かってください」
「はいはい、わかりましたよ。ホント、宮仕えも楽じゃないなぁ」
観念したカカシが、楽譜棚を漁りはじめる。
暫くして一冊の楽譜をひっぱりだすと、作曲日を示す数字に何本か線を追加し、日付を偽装した。
「はい。完成!」
「カカシさん、いくらなんでもこれはまずいですよ」
「大丈夫。絶対にバレませんよ。どうせ覚えちゃいないんだから」
どんなに素晴らしい曲を作っても、音楽の感性に乏しい国王がその価値を正しく理解することはなく、音楽は日々使い捨てられている。仕事と割り切ってはいても、カカシの心から虚しさを消せるはずもなく、それをよく知るイルカが口を開いた。
「俺はアナタが作った曲を覚えてますよ。全部、覚えています」
「ん。ありがとね、イルカ」
貴方がいるから音楽が生まれるのだと、カカシが笑った。
結局、カカシは新しい舞曲を書くことはなかったが、カカシとイルカの率いる楽団の演奏は秀逸で、隣国の王を大層喜ばせることとなった。
2
式典の数日後、カカシの仕事場に王の姿があった。
「カカシよ、イルカが隣国の楽士長を務めることになった」
カカシの全身の力が抜け、手にしていたバイオリンが滑り落ちる。
それは、エンドピンから床にぶつかり、カーンと嫌な音を部屋に響かせた。
「陛下、それは一体どういうことでしょうか」
「国王がイルカを所望されたのだ」
「そんな……イルカと会って話さないと!」
国王は綺麗に整えられた眉を残念そうに寄せた。
「数刻前にイルカは出立しておる」
「なんですって?」
王に望まれれば、一介の楽士風情に拒否権がないことくらい分かっている。
恋人に何も告げずに去らざるを得なかった事情もあったのだろう。
けれども、故郷もろとも恋人を捨てることにイルカは強い拒絶を示したはずだ。
せめてその様を知りこれからの生きるよすがに、と、カカシは不敬を承知で王に食い下がった。
「イルカはどんな様子でしたか? 何と言っていましたか?」
「この国にはお前がいて楽士長の座につくことは出来ぬので、願ったり叶ったりだと」
「なっ……」
グラリと視界が歪み、立つことすらままならなくなったカカシは目の前の譜面台に縋った。
この恋を信じていた。
愛していることも、愛されていることもカカシにとっては当然のことだった。
でも、もうわからない。
ねぇ、イルカ、どうして迷いなく俺を捨てたの?
俺は愛されていなかったの?
3
自国の宮廷より遥かに煌びやかな王宮を支配しているのは、夜の闇。
その闇の中、手に持った燭台の火を頼りにイルカは歩いていた。
自室へと戻るその足取りは、重い。
イルカには、楽士長の務めとは別に課せられた務めがあった。
イルカは夜毎、王の閨を訪れなければいけないのだ。
始まりの夜、イルカは王の腕の中でカカシ恋しさに静々と涙を流してしまった。
その訳を問うた王に返す言葉があろうはずもなく、イルカは自ら夜着を脱ぎ捨て王に躰を任せようとした。
「イルカよ、今は無理をせずともよい。だがいずれは余を愛せ」
そのとき王は不機嫌にそう言い捨て、イルカに夜着を纏わせてくれたのだ。
それ以降、王がイルカに性的な関係を迫ったことはない。
褥の上で王はイルカを抱きしめ、その音楽の才を褒め称え、イルカに愛を乞うのだ。
優しい人だと思う。
大切にされているとも、思う。
今後この国で生きていくことを思えば、王の寵愛を受けるべきだろう。
イルカを見て眇められる王の目に優しさがある、今のうちに。
けれど。
自室のベットに倒れ込み、イルカは枕を抱きしめた。
「カカシさん……」
パタパタと落ちる水滴が枕の色を変えてゆく。
身を裂かれるような愛しさにイルカは声を殺して泣いた。
離れたくなかった。
共に生きたかった。
ずっと一緒に、と何度も誓った相手なのに。
だけど、国王に望まれてしまってはどうしようもない。
ならばせめてカカシが自分に未練を残さぬように、他の誰かと幸せになれるように、と酷い男を演じた。
カカシは恨んでいるだろうか?
それとも、もう新しい恋に夢中になっている?
カカシの幸せを心から願っているけれど、自分以外の誰かに笑いかけるカカシを想像するだけで死にたくなる。
俺を一生忘れないで、と泣いて縋っていれば、彼の心だけでも永遠に手にすることが出来たのだろうか。
愛しさに、声が零れた。
「カカシさん!」
「はい」
え……?
応えがあったことに驚いて跳ね起き、声のしたほうを恐る恐る振り返ると逢いたくてたまらなかったその人が、居た。
「あ……カカシさ……ん」
喜びと哀しみが入り混じった複雑な表情のカカシがこちらに向かって歩いてくる。
「イルカ、迎えにきたよ。遅くなってごめんね? イルカの嘘を見抜けなくて、ごめん」
「カカシさん、なん……で? 仕事は?」
「辞めてきた」
「そんな! 俺たち楽士はパトロンがいないと楽器のひとつも手に入れれやしない! 貴方、音楽なしにどうやって生きていくんです!?」
「俺、言ったでしょ? イルカがいないと音楽は生まれない。俺はイルカが何よりも大切。イルカは? ねぇイルカは俺のために何を捨ててくれる?」
怖いくらいに真剣な眼がイルカを見据えている。
可哀想なくらい震えている手で、イルカはカカシに縋った。
「そんなの、全部に決まってるっ」
「イルカ!」
強く強く抱きしめてくれる腕に安堵して。
服越しに感じられるカカシの温みが愛おしくてたまらない。
こんなにも愛しい人をどうして残して去れたのだろう。
「カカシさん、すみませんでした」
「俺のほうこそ、ごめんね。ねぇ、イルカ、早く行こう? 夜が明けるまでにできるだけ遠くに逃げなきゃ」
「はい。すぐに着替えます」
「足音がするといけないから靴は脱いで手に持って。俺が侵入した経路を使うから、ついてきて」
手早く着替えを済ませたイルカを伴い、カカシは廊下へと続く扉を開けた。
そしてそこに在る二つの人影に、言葉を失った。
王と護衛兵。
「イルカよ、余の情けを拒んだ理由はこの男か。いい加減抱いてやろうと来てみれば、駆け落ちの場面に出くわすとはな」
幸せは一瞬のうちに潰えた。
だけど、二人一緒にいれるなら、この世でなくとも構わない。
彼等は互いを見た。
そして、同じ気持ちであることを知る。
死を覚悟した今、イルカの心は不思議と凪いでいた。
王が護衛の懐に手を入れ、護身用のナイフを取り出すのを静かな気持ちで見つめている。
「イルカよ、余の元に戻れ」
王は鞘を抜き、鋭い切っ先をカカシの左眉の上に当てた。
カカシはイルカの手を握りしめ、強い視線で王を見返す。
「嫌です」
銀の刀身がカカシの白い肌にめりこんだ。
「今一度、命ずる。余の元に戻れ」
イルカはカカシの手を強く握り返した。
「嫌です、陛下」
王はナイフを引き下ろした。
カカシの眉の上から頬にかけて白い肌が裂け、夜目にも鮮やかな赤が噴き出す。
しかし、カカシは微動だにしない。
今度は、血濡れのナイフがイルカの目の下に当てられた。
「イルカよ、もうこれ以上は聞かぬ。余のものになれ」
「……いいえ、陛下。いままでありがとうございました」
満たされた微笑みを浮かべて、イルカは瞳を閉じた。
冷たいナイフが皮膚を食い破る痛みがイルカを襲ったが、不思議と恐怖は感じなかった。
左目の下から始まったそれは、鼻頭を通り、右目の下で止まる。
やがて来る死を覚悟したとき、カランと乾いた音が廊下に響いた。
目を開けると、床に転がったナイフと王の背が見えた。
「イルカよ、今このときをもって宮廷楽士長の任を解く。どこなりと好きに行くがよい」
王から与えられた温情にイルカは呆然としていたが、しばらくして我に返り、立ち去る王の背にむかって深々と頭を下げたのだった。
4
森の中の小屋の床は、木屑や端板で埋め尽くされていた。
シュッシュッツと小気味よい音を響かせ、テンゾウが松の板にカンナを当てている。
「先輩と出会ったのが人生最大の不幸ですよ。なんだって家具職人のボクが楽器をつくらなきゃならないんです!?」
「テーンゾ? まぁ、そう言わないでちょうだいよ。家具職人なんて掃いて捨てるほどいるけど、俺が認めたのはお前くらいなもんだよ」
「また適当な言葉でボクを言いくるめようとして!! もうその手には乗りませんよ」
プリプリと怒っていても、木材を扱うテンゾウの指先に一寸の迷いも乱れもない。
「テンゾウさん、すみません。俺達の生活の面倒を見ていただくだけでなく、楽器まで作らせてしまって」
心底申し訳なさそうなイルカの声が背後から聞こえ、テンゾウは文字通り飛び上がった。
「イ、イルカさんっ。いつ戻られたんです? 今、響板を削っていたところなんです。恥ずかしながらどのくらい削っていいかさっぱりなので、教えていただけませんか?」
「テンゾウさん、ありがとう。俺もカカシさんも軽い音が好みなので本当はもっと削っていただきたいのですが、俺、肝心のアクションを手に入れることができなかったんです。だから、もうチェンバロは諦めようかと」
自らの指先に視線をあてたイルカが切なげに微笑んだ。
チェンバロを弾きたくてたまらないのだろう。
真摯に音楽と向き合い続けてきたであろうこの人に、こんな顔をさせたくないという思いが闘志となってテンゾウを奮い立たせた。
「だったらアクションもボクが作ってみせます!!」
「ありがとうございます。でも、アクションは楽器職人でも作れる方はほとんどいらっしゃらないくらい難しい部品でして」
「どんな部品だって木を使う限りボクに不可能はありません! 必ずやイルカさんの理想の楽器を作ってみせます!」
「テンゾウさん……ありがとうございます。俺、とても嬉しいです」
テンゾウの優しさと熱意に心を打たれたイルカは、目に浮かんだ涙を指でそっと拭うのだった。
ここで、恋人と後輩のやりとりを不満げに見ていたカカシの我慢がついに限界を超えてしまう。
「はーい。そこまでー。イルカはね、俺の恋人。テンゾウ、わかってる?」
「そ、そんなこと、わ、わかってます!!」
「ふーん。じゃぁ3時間ほど、いや4時間かな? 出かけてきてよ」
「え? どうしてですか?」
「どうしてって、これからイルカ先生とHなコトをするからに決まってるでしょうよ」
「「は!?」」
同時に短く叫び、赤くなるイルカと青くなるテンゾウ。
「カカシさん、何言ってるんです? テンゾウさん、しませんよ! こんな真昼間からするわけないじゃないですかっ!!」
「へーぇ? 真昼間じゃなかったらするんだ。イルカ、かわいいね」
「ちょっと、カカシさんいい加減にしてください!!」
「ボ、ボク用事を思い出しましたから、行ってきます!」
「あっ、テンゾウさんっ、ほんとにしませんからっ」
カカシは、しどろもどろになっている二人をニヤニヤと見つめながらイルカの手をとった。
涙目のテンゾウがバタンと大きな音をたて小屋を出ていくのを見届けて、イルカを抱き寄せる。
「もうっ! カカシさん何やってるんですか! テンゾウさんに失礼です」
「ごめーんね。イルカがテンゾウと仲良くするから嫉妬しちゃった。ねぇ、イルカ。この際ハッキリさせておきたいんだけど、イルカは誰のもの?」
「えっ? 俺……は。俺は、カカシさんのものです」
「ん。ごーかっく♡」
そういって、子どものように無邪気に笑う恋人を、イルカは満たされた気持ちで強く抱きしめたのだった。
その後、テンゾウは数多の困難を乗り越え、カカシとイルカの為に新しいチェンバロを完成させた。
アクションとハンマーに改良を加えたそれは、ピアノからフォルテまで音量を自由に変化させることができる画期的な楽器となった。
カカシとイルカはその楽器をピアノと呼び、一生涯大切に扱ったという。
END
2016.10.6リライト