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   Dies irae


リン!
なんで、なんでっ、なんでだ!
どうして生きることを諦めた?
なんとかして生き抜こうって、どうしてあがいてくれなかった!?

オビトが死んで
仲間が死ぬってことがどういうコトか、俺たちは身にしみて分かってたはずなのに

痛み 苦しみ 辛さ 哀しみ

そんな簡単な言葉じゃ言い表せないくらい、激しくてドス黒い気持ちが
どんなふうに、自分を侵食していくのか、
食らいつくそうとしてくるのか、
それがどれほど恐ろしくて救いがないか
俺たちは知っていたのに

何をしたって逃れられない、時間だって癒すことのできない
同じ傷を
あの日あの時、俺たちは心に刻みつけた

それからは
俺たちはお互いの傷口を
ぴったり合わせるようにして、なんとか生きていられたのに
そんなことはリンだって全部わかってたはずだ!


今日、リンの母さんにあったよ。
リンの死に際がどんなだったか聞かれたんだ


「死ななければいけない運命だったなら、好きな人の手で逝けて、あの子は幸せだったと思います」
ってお前の母さんは俺に言ったんだよ

青ざめた顔で
泣き腫らした瞼をキッと開けて
恨みの籠った恐ろしい目で俺を睨み付けながら
そう言ったんだよ



ねぇ、リン
どうして俺を置いて逝った?
俺がほんとに好きなら

「一緒に戦って一緒に死んで」

って言ってくれればよかったじゃないか
そのほうが、どんなにかマシだったのに

おまえは里を守れて
俺の手で死ねて
逝った先でオビトが待ってるから
いいね


俺はね、俺は。

リンの骨が折れる音や
拳に纏い付くリンの血の匂いや
リンの身体の中の温みや
見開かれたリンの目や
それなのに満たされて笑ったリンの顔や
地に落ちたかつてリンだった欠片の肉生々しい色や
止まらない血や
激しく痙攣するリンの身体や
呻くリンの恐ろしい声や

そういったものを
そんなものを
全部、全部、全部
忘れられない

どれだけ時間がたったって、
オビトが死んだときのことを
忘れられないように
繰り返し夢にみるように

リンを殺したときのことを
繰り返し夢にみて
きっとずっと全部覚えてる

俺はオビトを死に追いやったって罪だけで
押しつぶされそうになっているのに
リンをこの手で殺したって罪を
一生背負って生きなきゃいけなくなったよ

どうして?
ねぇ、どうしてだよ。
どうして一緒に死んでって言ってくれなかったんだよ

父さんも、
オビトも
リンもいなくなった世界で
生きていたって仕方ないのに

酷いよ、リン
哀しくて寂しくて怖くて、とても辛いんだ
ねえ、リン
どうして俺を連れて行ってくれなかったの?

                                 (2016.08.29)


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